月一回、中央本線で甲府に向かう、あずさ5号に乗る。

朝から台風の気配を感じる曇り空だった。

 

八王子を過ぎると、だんだんと緑が濃くなり、

トンネルにスマホの電波が何度となく遮られ、列車は山間に入る。

 

ふと、車窓からの景色を眺めると、厚い霧が垂れ込めている。

雲海が山あいの稜線を見えなくして、さらには雨さえ降って来た。

ぼんやりと重なり合う陰影のような山並みを眺めていた。

山々が迫ってくる。

 

日本の山である。

雲と山と、モノクロの陰影と、

この風景は、紛れもなく日本の形式美のように、

私たち日本人に刻まれている。

 

日本人は、今私が見ているこの美しさ、

日本のそこここにある同じような美しさに、

何度となく郷愁を感じ、何度となく寂寥を感じ、何度となく神々を感じていただろう。

 

天が近い。

山があり、雲間に山の連なりが見え隠れして、

時にはバックライトのように、隙間を縫って幾筋かの光が差し、

導かれ、天と地を繋ぐ。

 

そんな、日々生成しては消える、雲散霧消する思いを抱いて、

しばし、私の中にも存在する静かに振動するものに周波数を合わせた。

それがなんであるか、じつのところ、本当によく知っている。

思い出すだけでよいのである。

 

 

甲府盆地に入ると、そこは晴れていた。

地の利の妙である。

盆地をぐるりと囲む山々に、雨雲は締め出されてしまったようだ。

 

列車を降り、改札を抜け、甲府駅を出ると、青い空があった。

 

清々しさと、少しの熱気を感じた。