
〝究極の逆説的実用書〟ーー転換期を迎えた現代社会に向けて語る新しい美意識の世界
装丁:美柑和俊(株式会社MIKAN-DESIGN)
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〝究極の逆説的実用書〟ーー転換期を迎えた現代社会に向けて語る新しい美意識の世界
自分に美意識があるとは思えない。美術やアートなんて自分にはむずかしくてわからない‥‥‥大きな声では言いにくいそんな思いを胸に秘めている人は実は多いのではないでしょうか。そんな多くの「私たち」に本書の著者、井坂健一郎氏はこう語りかけます。
〈日常の中で瞬間瞬間に感じる美の感覚を、私たちはふだん「心地よい瞬間」として記憶し、その記憶を日々、瞬間瞬間、確かめながら生活しているのではないでしょうか/海でも山でも街でも、人は心地よさを感じる瞬間を体験し、それを記憶しています。心地よさという感覚が美の感覚と繋がっているとしたら、私たちは意識しなくても美の感覚をいつも感じとろうとしている、ともいえます〉(本書より)
氏はこうして、既成の美意識や、伝統的な美意識にとらわれがちな私たちの心細い美術観に優しいゆさぶりをかけつつ、転換期を迎えた現代社会にこれから現れるであろう新しい美意識の世界について語っていきます。
「空にむすばれる」「虚実のあわい」「たまゆら」など、独特の日本語表現の力を借りながら、自身の感性と結びついた美意識をかたちにしてきた著者の多彩な作品群は、「虚実を混在させる彼の世界観は、幼いころから抱き続ける不思議な感覚と日本の現代美術の歩みとが二重写しになっている」(『月刊ギャラリー』3月号「美術の駅」より)と美術界の専門家からも高い評価を受けてきました。
本書は絵画、写真作品、インスタレーション、アートプロジェクトな多彩な創作活動でも知られる氏の初めての著作。冒頭で紹介される美術家として関わった建築の作品群の解説、美意識を探求する書き下ろしの論考のほか、国立山梨大学で美術教育に携わる氏の「新時代の美術教育論」を収め、「美術家・井坂健一郎」の美意識世界を一望する力作となりました。
氏ならではの独創的な着眼点や美意識観は、ふだん美の世界に無縁と思いがちな「私たち」にこそ役に立つという意味で、〝究極の逆説的実用書〟ともいえるのかもしれません。
〈本屋に行って本の積まれ方を見るということでもいいですし、いい映画を見るでもいいでしょう。そういう時々に、私たちの美意識が自然に開かれていれば、自分にとっての「心地よい瞬間」が現れたとき、そこに注意が止まる。その止まった瞬間がその人にとってアートが現れた瞬間です〉(本書より)
巻頭に、著者の恩師のひとりである七沢賢治氏の特別寄稿も収載。
大いなる余韻に浸れる読み応えある祝辞です。ぜひ、みなさんも!
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